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『向山学級騒動記』

学校は表文化の社会である。あるいは、正統派文化の社会である。

作文がうまい。ピアノが上手だ。かけっこが速い。計算が得意だ。
これらは、すべて表文化である。
表文化のチャンピオンが「優等生」である。

ところが、表文化があれば裏文化がある。
子ども社会は裏文化の社会ともいえる。

いたずら、けんか、はみだし、遊び、強がり……
これらは、すべて裏文化である。
裏文化のチャンピオンががき大将である。

私は裏文化が好きである。
子どもを、ぜひとも裏文化の中で育てたいと思っている。
ちょっぴり欲をいえば、知的雰囲気をかもし出すような裏文化であってほしいのだ。

知的雰囲気をかもし出す裏文化は、強烈な好奇心を必要とする。
一つのことをあれこれひねくって考えてみる頭脳を必要とする。
自分自身さえ否定していけるシャレの心を必要とする。
与えられたことを一直線に学習する優等生の文化とは異質なのである。

本著は、私の学級の裏文化を書いたものである。

しかし、本著は単なるがき大将称賛の書ではない。
私は、知的かおりのない人間は好きではない。
やんちゃ坊主のがき大将が、キラッと光る知性のひらめきを示す。そういうのが好きなのである。
私は子どもたちをそのように育てたいと思っている。

裏文化は優等生文化が足もとに寄れないほど、強烈で個性的で知性的であると考えているのだ。

子どもたちが次々と起こす騒動・事件こそは、大切な教育の場である。
子どもたちのけんか、はみだし、遊び、強がりをとり入れていくことによって、教室はダイナミックな生命力を宿すのである。

1983年3月

向山洋一
『向山学級騒動記』はしがき