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『ぼくがスカートをはく日』

エイミ・ポロンスキー著『ぼくがスカートをはく日』(2014)です。

本書は、ポーター中学校の1年生(日本における小学6年生)の身体の性別が男の子のグレイソンが、演劇『ペルセポネの物語』で、主人公のペルセポネ(本来なら女子が演じるであろう)を演じるという小説です。

グレイソンはスカートをはきたい男の子です。
このズボンが、ライラやアミリアやペイジがはいているようなスカートだったらいいのに。みんなの目にも、そう見えていたらいいのに。昔は、これがスカートだと思いこみさえすれば、なにもかもうまくいったのに。
p.85-6

演劇のオーディションをまとめるフィン先生はグレイソンが女子の役を演じるのに前向きです。
フィン先生は、よしと言うようにうなずいた。「グレイソン、やってみろ。ペルセポネのせりふを読んでくれ」
 ペルセポネ。その名前が頭の中をぐるぐる回りはじめた。みんなの反応なんて、考えるのもいやだ。「男子が女子の役をやるんだって!」と言われるだろう。
p.88

グレイソンは古着屋の試着室でスカートをはきます。
窓の横に、大きな三面鏡がある。ここに存在するのは、ぼくと、このスカートだけ。スカートをはいた自分を明るいところで見たい。
p.111

しかし、それを女友達のアミリアに見られてしまいます。
フィン先生がぼくにペルセポネの役をくれなくても、アミリアはみんなに今日のことを話すだろう。ランチタイムの話題になるにちがいない。”スカートを試着する男子なんて、ありえない! それも、すっごくかわいいスカートだったの!”
 うわさは疫病みたいにまわりに広がって、ぼくはみんなの注目の的になる。
p.113

グレイソンはペルセポネの役を得ます。
ペルセポネ グレイソン・センダー
p.152

グレイソンは稽古のために髪を三つ編みにしますが、うしろめたい気持ちになります。
 フィン先生が来るまでに、ぼくの髪はできあがった。頭を手でさわってみると、髪のすべてが細かな三つ編みになって、ヘアクリップがついていた。なんだか急に、うしろめたいような気分になった。テストでカンニングをしたのにつかまらなかったみたいな、変な感じだ。けど、そんな気持ちは忘れることにした。
p.188

しかし、グレイソンにペルセポネ役を演じることを許したフィン先生はトラブルに巻き込まれてしまいます。
「すまなかった、グレイソン。ただ、これだけはわかっていてほしい。きみがペルセポネのオーディションを受けるのを許したときは、こんなことになるなんて思ってもいなかったんだ」
「わかってます。もちろんわかっています」
 先生はほっとしたようだ。「きみが同意してくれるなら、今日、キャストのみんなに、ぼくのこれからのことを率直に話したいと思っている。いろんなうわさや疑問が飛びかっているし、みんなにも知る権利があるからね」といって、ぼくの顔を見た。
p.252-3

フィン先生はポーター中学校を辞める決断をします。
「決意したことがある。ぼくはもうすぐ、この街をはなれる」(中略)
「ここポーター中学校で教えはじめて10年近くになる。最近になって、ニューヨークの<セントラル>と言う小さな劇場から誘いを受けるようになった。長い伝統があって、とても有名な劇場なんだ。現職の助監督の退団が決まったので、ぼくがその後任を務める。劇場もすばらしいし、仕事もすばらしい。このチャンスをのがすわけにはいかない。だから、『ペルセポネの物語』は、ポーター中学校でのぼくの最後の作品ということになる。きみたちといっしょに取りくめたことを、誇らしく思っているよ」
p.255

グレイソンはドレスリハーサルの際に、感慨深い気持ちになります。
ランデン先生が、第一幕用の金色のドレスを着るのを手伝ってくれた。この役のせいでフィン先生がいなくなるんだとわかっていても、サリーおばさんがぼくのことをモンスターだと思っていても、床から天井まである大きな鏡に映った自分を見ると、これこそほんとうの自分だ、と思うことができた。
 中身と外見がようやく一致した。みんなもきっと、そのうちわかってくれる。
p.256

グレイソンは階段から突き落とされてしまいます。
 階段の上でふりかえった。タイラーとライアンがすぐうしろにいる。ジャックの背中が遠くに消えていく。だれかの手にバックパックをつかまれた。うしろに引っぱられ、今度は前に押される。ぼくは足を踏んばった。今度は髪をつかまれた。バックパックが前後にゆれて、階段を転げおちていった。足をけられ、背中を押される。手すりをつかもうとしたけど、手が届かない。あとは落ちていくだけだった。
 まず額を打った。それから手首に激痛が走った。そしてひざ。ぐるぐる回転していた景色がやっと落ちついて、最後は天井が見えた。
p.259

本番の舞台でグレイソンはギプスをしながら演じます。
 観客は、うわさの人物グレイソンを見ようと固唾をのんでいる。
 ステージに歩み出たグレイソンの手首には、ピンク色の大きなギプスがはめられ、金色のドレスが照明を浴びて輝きを放っている。
 彼の姿を見て、客席には笑い声がもれる。
p.269

ライアンは別のクラスに移ることになります。
「そんなわけで、グレイソン。ライアンは、わたしたちの要求どおり、別のクラスに移ることになった。校長先生が、おまえがライアンと顔を合わせる機会が最小限になるように、とりはからってくれるそうだ」エヴァンおじさんは、校長先生を鋭い視線でとらえたまま、ぼくに言った。
「グレイソンは安心していていいんですね、校長先生」おじさんは念を押した。
「もちろん」校長先生はうなずいた。ぼくの顔ではなく、自分の手を見ている。
「ライアンもタイラーも、きみに接近することを禁じられている。休み明けは一週間停学だし、停学が明けてからも、一度でも問題を起こせば退学と決まっている」
p.275-6

フィン先生の代わりにラベル先生がグレイソンのクラスの人文学の授業を受け持つことになりました。ラベル先生は黒板に書きました。そして小説が終わります。
“不安に負けず、大切な行動を起こすこと。”
 ぼくは聞きながらノートをとった。時計を見た。8時53分。ニューヨークでは9時53分だ。窓の外を見て、思った。フィン先生はどうしているだろう。
p.281