ビジネス2(女性)
この問題を、誤りが見えない
(error blindness)という。私たち
がそれぞれ今信じている間違いが何で
あれ、それは必然的に自分には見えな
い。一人称単数現在形では、誤りは文
字どおり存在しないという、目からう
ろこの事実について考えてみよう。
「I am wrong(私[の言っていること
]は間違っている)」という文は、論理
的にありえないことを言っている。自
分が間違っていることがわかったとた
ん、もう間違ってはいない。信じてい
たことが誤りだと認識することは、そ
うは思わなくなるということだからだ
。つまり、自分では、「I was wrong
(私は間違っていた)」としか言えない
。これを誤りに関するハイゼンベルク
の不確定性原理と呼ぼう。人が間違っ
ていることはありうる。あるいはそれ
を本人が知ることはできる。が、同時
に両方はできないのだ。
キャスリン・シュルツ
『まちがっている』(2010)p.32
女性の部下がいる男性役員た
ちに、この「自信の格差」について話
してみたところ、返ってきたのはもの
すごいフラストレーションに満ちた反
応だった。彼らは、自信の欠如が根本
的に女性たちを抑制しているのだとわ
かっているが、でも何かを言って、性
差別主義者のように思われてしまうの
を恐れている。ほとんどの男性が私た
ちのような自己信頼の欠如を経験した
ことがないし、理解できないため、ど
う話をしていいかわからないのだ。
ひとりのシニア・パートナー弁護士
が、ある若い女性のアソシエイト弁護
士の話をしてくれた。彼女はすべての
面において優秀だったが、唯一、クラ
イアントとのミーティングで発言しな
いのが問題だった。彼には、彼女がそ
の案件を担当できるほどの自信をもっ
ていないように見えた。だが彼は、ど
うしたら攻撃的な印象を与えずに、そ
のことを問題として取り上げられるか
わからなかった。そして結局、「自信
」に関する項目を、公式に人事評価プ
ロセスに入れるべきだという結論にい
たった。ビジネスを行なう上で、自信
があるかどうかは、それくらい大切な
要素なのだ。---この「パワーポーズ
」は、コミュニケーションの授業では
よく使われる題材である。ブラウン大
学のバーバラ・タネンバウムも講義で
使っている。彼女はいつも、男子学生
たちには女性らしく座るように、女子
学生たちには男性らしく座るようにと
言って授業を始める。それを何年も続
けた彼女は、ふたつの観察結果を得た
。まず、その課題にはいつも笑いが起
こる。ふたつ目に、誰も彼女にそれに
どういう意味があるのかを聞かない。
皆、知っているのだ。たいてい男性た
ちは、体を内に縮めるようにして脚を
組んで座るのは、とても居心地が悪い
と言う(タネンバウムはいつも、スパ
ンクス(補整下着)を着て、ヒールを履
いてやってごらんなさいと皮肉る)。
逆に女性は、馴染みのないポーズに解
放された気分になるようだ。ある日タ
ネンバウムは、この講義をインドの高
校で行なった。ひとりの女子生徒が、
膝を開いて、椅子の背もたれに深々と
寄りかかり、「王様になったみたいな
気分!」と声をあげた。そう、「王者
の自信」それが私たちが女性たち皆に
あげたいものなのである。
キャティー・ケイ、クレア・シップマン
『なぜ女は男のように自信を
もてないのか』(2014)p.46-7,171-2
「能力主義」のウソ
女性と仕事について語る時、まず「
能力」が問題にされます。「能力さえ
あれば、女性も男性と同等に昇進でき
る」といった類の言葉は、働く女性な
ら何度も聞いているのではないでしょ
うか。「能力」と同時に云々されるの
は「資格」や「学歴」です。よく、キ
ャリア・アップをはかるために女性が
大学や大学院に戻って学位を取ったり
、資格に挑戦したりするケースが見ら
れます。しかし、これらは必ずしも、
本人の希望する仕事や地位に結びつか
なかったりします。---
女性は会社の「外国人」である
ほとんどの女性にとって、会社とは
男性が先住民である「外国」です。ひ
とつの国にはその国ならではの風俗、
習慣、言語がありますし、そこで暮ら
す人々は、その土地だけで通用する行
動様式を身につけて生きています。道
路には現地人にだけ分かる言葉で書か
れた標識があちこちに掲げられている
のですが、よそ者である女性には判読
できません。場合によっては標識その
ものが存在しなかったりします。
男性の現地人は、あなたが旅行者で
ある限りは親切ですが、いったんそこ
に住みつこうとしたら、途端にそっけ
なくなります。「外国」で仕事を始め
ようとするあなたは、周囲の状況を説
明してくれる人もいない状態でおそる
おそる歩き回らなくてはなりません。
そこには、地図もなく、あたりはまる
でジャングルのように見えます。---
会社とは「軍隊」である
「会社と軍隊は同じ」こんなことを言
ったら、あなたは目を丸くするでしょ
うか? しかし、企業と軍隊はきわめて
似通った性質を持っています。そして
、これこそがビジネス社会の文化なの
です。ビジネスと軍隊は次のような点
で共通点があるといえます。
1.目的が明確であるということ。軍隊
は国を守るため、具体的には戦争に勝
つために存在し、企業は利益を上げる
ために存在する。
2.大きな組織がいくつものセクション
に分割され、それぞれのセクションに
管理する人間が配置されている。
3.組織の中では一種の「チーム・スピ
リット」が要求される。自分の上官・
上司に対して逆らうことは許されない
。---
「命令の鎖」とは何か
組織のピラミッドには、横のつなが
りもあるが、縦のつながりもあります
。軍隊ではこの縦のつながりを「命令
の鎖」と呼んでいます。この鎖のひと
つひとつの「つなぎ」は人間です。つ
まり、これは誰もがそれぞれの上司を
持つということなのです。仕事におけ
る全ての情報や命令、報告、決断など
は、この鎖を通じて、ひとつの層から
次の層へ上がったり下がったりして伝
えられていくのです。
あなたが、ここでまず身につけなく
てはならないのは「組織の中では、権
威に向かって口答えすることなく、従
順に行動しなくてはならない」という
ことです。
テレビ局に勤めるマルガリータは、
副社長が責任者であるプロジェクトに
参加してほしいと頼まれました。彼女
は、目をかけてもらったことにすっか
り感激して、全力で彼のために働きま
したが、彼女の直属の上司である部長
は激怒したのです。なぜなら、彼は自
分の上司である副社長が自分に断わり
なく彼の部下を自分のプロジェクトに
参加させ、その間、他の者がマルガリ
ータが本来行なうべき仕事をこなさな
くてはならなかったからです。つまり
、部長は副社長を自分の陣地に断わり
なく入り込んできた「敵」と感じたの
です。
その結果、部長は、マルガリータに
対して本来は彼女がやる必要のない雑
用をたっぷりと押しつけました。それ
も、非常にきびしい締切りを設定して
。それが「命令の鎖」に逆らった者へ
の罰則というわけです。
マルガリータは副社長と部長の対立
の犠牲者になり、今後の昇進の望みも
絶たれようとしています。このような
時、彼女が取るべき行動は、まず、副
社長に部長に対して「彼女をしばらく
貸してほしい」というアプローチをし
てもらうことだったのです。それをす
れば、部長は原則的にイヤとはいえま
せんから、マルガリータは堂々と副社
長のプロジェクトに参加することがで
き、そこで成功をおさめれば、突出し
た存在となることもできたでしょう。
「命令の鎖」についてのケースにはこ
んなものもあります。
ある若くて有能な女性は同僚からも
上司からも好かれ、快適な職場環境で
働いていました。先輩たちは、彼女に
なにくれとなく世話をやいてくれ、彼
女の仕事ぶりに十分満足していたので
す。
ところが、しばらく経って彼女の仕
事の成果が驚くほど向上してくると、
上司の好意的な態度はすっかり消え失
せました。どんなに完璧に仕上げた仕
事に対しても何か欠点を探し出そうと
するのです。ある日、彼女が上司を通
さずに、ベテラン社員から仕事につい
ての説明を受けているのを見た彼は、
カンカンになってこう言いました。「
何かわからないことがあるんだったら
、私に聞きなさい。君に必要な情報は
みんなあげているじゃないか!」
彼女がここで犯した間違いは「直属
上司以外の別の誰かを頼りにした」と
いうことを彼に知られてしまったとい
うことです。実際のところは、彼にた
ずねたところで仕事についての有益な
ノウハウは教えてもらえなかったこと
でしょう。おそらく彼は、その分野に
詳しい誰かを紹介してくれるにとどま
ったはずです。しかし、それでも「彼
にたずねる」という手順を踏むことが
ここでは求められていたのです。つま
り、オフィスの中では、効率を求める
よりは、秩序を優先した方がよりよい
結果を生むことが多いといえるのです
。---
1.ビジネスの世界では男性は女性に対
して決して好意を持っていない。
2.女性は、男性の同僚にどのように紹
介されるかによって扱われ方が異なっ
てくる。
3.男性によって完璧に組織ができあが
っている部署に女性が入ることは歓迎
されない。
4.男性だけのグループに女性が一人入
ることは基本的に不愉快なものである
ことを受入れること。それを考慮して
感情をコントロールする必要がある。
---男性にもひとつ大きな弱点があり
ます。それは「女性も男性と同等の思
考能力を持っている」ということを信
じられないということです。男性は多
くの場合、女性をステレオ・タイプで
しか見ることができません。彼らは、
女性を「母親」「姉妹」「妻」「娘」
もしくは「ガールフレンド」か「娼婦
」のいずれかに当てはめなくては相手
を認識できないのです。男性は、自分
たちが論理的で冷静だと言い張ります
が、実際彼らの女性に対する態度は非
論理的で感情的なのです。
ベティ・L・ハラガン『ビジネス
・ゲーム』(1977)p.20,22,24-5,32,36-8,58,61-2
私は、コンサルティング会社
に勤務していたころ、女性の上司から
、自分よりも2年弱ほど遅く入社した
女性コンサルタントに服装の注意をす
る役目を言い渡されました。この女性
の新入社員は、研修期間に白いワンピ
ースやミニスカートなど、明らかに職
場では浮いてしまうような服装をして
きました。
問題は、その服装がすてきかどうか
ではないのです。要は、実力がまだ私
たちにとってわからないうちに、周囲
から浮き立ってしまって、仕事をする
ときに支障になることが問題なのです
。その時には、女性上司と二人で、不
本意かもしれないけれども、ダークス
ーツを着ること、スカートの長さを長
くすることなどを説明しました。職場
は戦場であり、会社は軍隊なのですか
ら、私たちが軍服以外を着るというこ
とは、軍への参加意欲を疑われてしま
うのです。---
私はこの本を読むことで、どの会社
でも同期入社の男性に比べて特にハン
ディを負うことなく、出産・育児休暇
取得にもかかわらず、比較的早い出世
を遂げ、仕事上のチャンスも幅広く大
きくもらってきました。そのことによ
り、さまざまな知見が拡がり、新しい
フレームワークや知識を取得すること
ができ、現在、さまざまな試みにチャ
レンジできるだけの人脈・資金・知恵
を蓄積することができました。
しかし、もしこの本がなかったとし
たら、早々に女性特有のわなにつかま
り、せっせと仕事をしても報われず、
その理由がわからずに悶々として、「
人は人、私は私」といったような狭い
世界に逃げ込んでいたことでしょう。
勝間和代(文庫版によせて)ベティ・L・
ハラガン『ビジネス・ゲーム』(1977)p.210,213
あるひとりの女性(46歳)の
例を紹介します。彼女は、今、新進の
ハイテク企業に勤めるやり手のソフト
ウェア・デザイナーです。大学では優
秀な成績を修めていましたが、就職に
ついては、あまり自信をもっていませ
んでした。有名企業に就職が決まり、
人事部長から給料はどのくらいがよい
かとたずねられたとき、「仕事さえあ
れば、給料はいくらでもいいです」と
答えてしまったのです。答えを聞いた
人事部長の顔に満面の笑みが広がった
のを、今でもよく覚えているそうです
。入社後、彼女は、自分の給料が同じ
ポストの人たちの中の最低のレベルで
あり、同僚の10~20%も低い額である
のを知りました。10年後に転職する
まで、彼女はこの損失を取り戻すこと
ができませんでした。---
社会は時代とともにずいぶん変化し
ました。しかし、人々は性別に基づい
たルールをかたくなに守り通していま
す。「女性はひかえめに」「女性は他
人のために行動しなくてはいけない」
「女性は自分の利益を追いかけてはい
けない」。こうしたルールに反すると
、制裁を受けるのです。侮辱されたり
、能力や仕事を低く評価されたり、仲
間はずれにされたり。自分自身がそん
な経験をしたり、また、他の女性が制
裁を受けるのを目撃したりすると、交
渉が必要な状況に出会っても、躊躇し
てしまうようになるでしょう。---
はっきりとわかる制裁もある(中略)
ある専業主婦の女性(41歳)は、かつ
て銀行の貸付担当責任者として働いて
いました。あるとき、その銀行は重要
な顧客であるアルミニウム製錬企業に
、かなりの金額を貸しつけようとして
いました。ほかの銀行も加わり、顧客
の奪いあいがくりひろげられました。
彼女はそれまでの1年、その製錬企業
の社長(50代の男性)と仕事をしてい
ましたが、その1年のあいだ、社長は
彼女を見下すように扱い、一緒に仕事
をするのはいやだとほのめかすような
態度をとっていました。そして、巨額
ローンの話が出たとき、ついに社長は
「女にはビジネスの話をしない」と言
いはなったのです。女にはビジネスの
資質がないと大声でどなり、担当を男
性にしなければ、銀行との関係を破棄
するとまで言いだしました。
彼女は銀行に戻り、上司(30代前半
の男性)と、さらにその上の上司(40代
前半の男性)にこのことを報告しまし
た。ふたりの上司はともに彼女を支援
すると伝え、当の社長と会って問題を
収拾しようと答えました。彼女も出席
したその後の会合で、その社長は人を
罵倒するような大声で、担当を代えろ
という要求をくり返すだけでした。彼
女は「あばずれと言われたかもしれま
せん。覚えていません。あまりにショ
ックで。でも、侮辱されても驚きはし
なかったでしょう。まるでスラム街の
けんかのようでした」とふり返ってい
ます。会合の場で、ふたりの上司はす
ぐに社長の要求をのみ、彼女を交代さ
せると言ってしまったのです。のちに
、彼女に対して、ふたりの上司は自分
たちの行動について釈明するのを拒み
ました。彼女は制裁を受けたのです。
重要な顧客を失っただけでなく、上司
に抗議もしてもらえず、中傷され屈辱
を受けました。単に、社長に対して一
緒にビジネスをすることを頼んだだけ
で…。社長からすれば、重要な仕事
、つまり、重要だからこそ男性の仕事
と思っていたものを、女性ができると
考えただけで耐えられなかったのでし
ょう。
リンダ・バブコック、サラ・
ラシェーヴァー『そのひとことが
言えたら…』(2003)p.6,13,119-20