離婚(女性)
結婚と離婚で動く金は、基本
的には、慰謝料、財産分与、婚姻費
用(あとで説明するが「コンピ」と呼
ばれる)の3つである。子どもがいれ
ばこれに養育費がかかるが、養育費
は離婚成立後の話だ。---最重要な
のがコンピこと婚姻費用だ。民法の
規定で、夫婦は相手の生活を自分と
同じレベルで維持し、夫婦の資産、
収入その他一切の事情を考慮して、
婚姻から生ずる費用を分担する義務
があるとされている。これが婚姻費
用の法的根拠であり、具体的には、
夫婦間でより稼いでいる方が、そう
でない方に毎月一定の金額を支払う
義務があるのだ。弁護士業界では、
婚姻費用のことを略して「コンピ」
と呼んでいる。しかし、ふつうに夫
婦生活をしていたら、コンピなんて
話は出ないと思う。本来的にはこう
いう結婚生活を維持するための金な
のに、コンピというのは、離婚騒動
になって奥さんと別居をしてからは
じめて表に出てきて、極めて重要な
役割を演じることになるのだ。この
コンピのために、ある程度の所得が
あるサラリーマンが離婚する際の支
払い金額が、簡単に全財産を上回る
ことになるのだ。
藤沢数希
『損する結婚 儲かる離婚』(2017)p.13,17
幸せな夫婦は相手に対して「
疑わしきは罰せずの原則」を適用し、
つまり不確かなときは相手に有利なよ
うに考えるようにし、不幸な夫婦はま
ったく逆のことをする。不幸な夫婦は
、片方がすてきなことをしてくれても
、単なる気まぐれだとか、しかたなく
やったことだとしか考えない。「そう
ね、たしかに花を買ってきてくれたわ
。でもきっと会社じゅうの男性が奥さ
んに花を買っていったのよ」。そして
勝手なことや迷惑なことをされると、
人間性の欠点が原因だと考える。「あ
んな口の利き方をするなんて、どうし
ようもない女だからなのさ」。---
報復ごっこ
自分の決断を正当化するために記憶が
発揮してくれる修正の威力は絶大で、
そのおかげで多くの夫婦は離婚するこ
ろにはもう、なぜ自分たちが結婚した
のかを思い出せない。まるで魔法のロ
ボトミー手術でも受けて、楽しくいっ
しょに過ごした記憶を削除されてしま
ったかのようだ。何度こんな話を耳に
したことだろうか。「結婚した次の週
には、失敗したなと気づいたね」「じ
ゃあ、なぜ子どもを3人もつくって、
それから27年も連れ添ったんだね?」
「さあね、義務感から、かな」
もちろん人によっては、現時点でのプ
ラスと問題点を冷静に判断して離婚を
決める者もいるだろうが、大半にとっ
ては、離婚は過去の改竄と不協和の解
消を詰め込んだ決断でしかない。なぜ
そうだとわかるかって? 問題の本質が
まったく変わらないときでさえ、夫婦
のどちらか、あるいは双方が離婚を決
めた途端に正当化の内容は一変するか
らである。夫婦が理想からは遠い結婚
生活でも続けていこうと決めたときに
は、こうした決断を支持する形でふた
りは不協和を解消する。「ほんとうは
それほどひどい生活ではない」「私た
ちなんてましなほう。少なくとも最低
じゃないわ」「誕生日は忘れられてし
まったけれど、夫はほかにもいろいろ
愛情を示すことをしてくれる」「たし
かにぼくたちに問題はあるけれど、で
もやっぱりぼくは妻を愛している」と
なるのである。ところが、離婚を考え
るようになると、別れるという決断を
正当化する方向で不協和の解消が始ま
る。「やっぱりこの結婚はひどいもの
だわ」「どこの夫婦だって私たちより
は上等よ」「夫が私の誕生日を忘れた
のは愛していない証拠」。そして、20
年も30年もいっしょに暮らしたとい
うのに、別れていく夫婦は容赦のない
一言でとどめを刺す。「一度も愛した
ことなどなかった」
キャロル・タヴリス、エリオット・
アロンソン『なぜあの人は
あやまちを認めないのか』(2007)p.p.223,231-2
1組のカップルに最初の滝
が当たる時、彼らが転げ落ちる夫婦の
急流は「黙示録の4騎士」で構成され
ています。私は、パートナーとのコミ
ュニケーションの試みを妨害する4つ
の悲惨な対話方法を名付けました。
それを危険度が少ない順に並べると、
批評、軽蔑、防御、そして妨害です。
ジョン・ゴットマン『Why Marriages
Succeed or Fail』(1994)p.72
1993年、心理学者のリン・ベイ
カーとロバート・エメリーは、この問
題をじっくり調べることにした。そこ
で、結婚する予定の人を探し出し、ア
メリカの離婚率を推定させた。すると
大半の人が、全体的な離婚率をかなり
正しく見積もった。次に、自分の結婚
に対して抱く期待を答えさせると、ほ
ぼ一様に、この先も関係が長続きする
だろうと理想化していた。自分の結婚
生活が離婚に終わる可能性を低めに見
積もっただけではない。万が一結婚が
破綻した場合に直面する問題の程度も
、過小評価していたのだ。離婚率につ
いての人々の認識を大きく高めたらど
うなるだろう? 彼らの描くバラ色の
予想は失われてしまうのか? ベイカ
ーとエメリーによれば、その答えはノ
ーだ。家族法の講義を受けても、婚約
中の法学生が抱く非現実的な楽観性は
まったく失われなかった。
ターリ・シャーロット
『脳は楽観的に考える』(2011)p.267
ゼクシィ『私は、あなたと結婚したいのです』
風船篇(2017)
日本の婚姻件数分の離婚件数は、1998年以降ずっと3割を超えています。2010年代はほぼ35%前後。3組に1組が別れる社会で、自分は大丈夫だといえますか? 離婚率は全盛期のイチローの打率並みなのです。(瀬地山 p.69)
ZOZOTOWN『風船篇』(2012)
ノーラ ねえ、トルヴァル、-いま、あたしがしているように、妻が夫の家を捨てると、妻に対する夫の義務は法律によって、いっさい解除されるっていうわね。どっちにしても、あたしはあなたを、あらゆる義務から解放するのよ。あたしもそうだけれど、あなたはもう何も、束縛を感じることはないのよ。完全に自由なのよ、両方で。さあ、あなたの指輪を返すわ。あたしのをちょうだい。
イプセン『人形の家』(1879)p.171
※このページは、瀬地山角『炎上CMでよみとくジェンダー論』(2020)を参考にしました。「」(瀬地山 p.)と記載されている部分は瀬地山角さんの個人的見解です。p.は著書のページ数から引用したものです。